午前1時のレモネード

翌朝の化粧ノリより、夜更かしの楽しさが大事。

花屋に並びたくない花だって咲いてもいいでしょう。

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昔から男所帯の集団に属してきたから、普段から気の知れた男性たちには混じっても平気な風でいる。
女子力なんて溝に投げ捨てて、男に張り合って好きなアイドルだのアニメキャラだのを叫んでみたり、質の悪い同性には「同性から見たってあれはナシだと思ってるわ」とツッコミを入れてみたりする。

だけど緑に混ざった赤色が際立ってふと香るように、男に混じっているからこそ私はどうしたって女なんだな、と強く自覚することもある。

 

男子に勘違いされない距離感。女子にやっかまれない距離感。
そのどちらもを、何も分かってない考えてないフリで、実はものすごく敏感に捉えている。
意識させないために、意識的に無意識そうに振る舞う滑稽さを、誰かはきっと気付いてるんだろうけどたぶんもうずっと止められない。

例えばこいつは彼女もしくは好きな子(名前も知ってる)がいるから安牌だとか。

こいつはフリーだけど、不特定多数と戯れるのが好きなタイプだからちょっと絡んだからってその気になることはない奴だとか。
こいつは何か最近理由もなく連絡してくるから黄信号か。こいつらはすぐその気になるから論外。
そんなことを、無意識のうちにめちゃくちゃ計算した上で対応を弾き出している。

 

いつだったか、学生時代に同期の誰かに聞かれたことがある。
「彼氏じゃなくても、例えばサークルの中の誰となら男でも二人きりで飯とか行ける?」って。
その時は「某と某以外の、そこそこコミュ力のある奴らはご飯くらいなら大丈夫」なんて答えたけれど。正確には違って、私の中にはもっとはっきり基準がある。


あのね、正解はね、(プラスアルファの用件もある上でご飯に行くくらいで)「こいつ俺に気があるのかも?」とか思わない奴なら大丈夫だよ。
そんな探るようなこと聞いてくる奴に、手の内を明かすようなほんとのことは言わないけど。

 

それから、どう振る舞えば同性の目からして「男に媚びてる」ように見えないか、難癖付けられないかも、とてもとても念入りに計算する。いっそ「この程度で媚びてるだなんて、そっちの思考回路の方がやましいんじゃないですか」と切り返せるくらいに。
たまにいる「男っぽく男に混じることで気を惹こうとしている女」にすら見えないか。口調態度恋愛への姿勢、その他を笑いながら常にどこか冷えた頭で考えて演出している。

わざとらしく男勝りに振る舞うでも女らしすぎるでもなく、あくまでニュートラルに。無気力に無関心に枯れたように振る舞うのがたぶん正解だ。勘違いや誤解なんかさせないように、異性の方にちょっとだけ塩対応くらいがちょうどいい。そう弾き出したのは中学生の時。


なんというか、当時から少女マンガでよくある、男を取った取られたで「恋愛で友情や世間体がダメになる」パターンが死ぬほど嫌いだったのだ。
「これって、誰かひとり恋愛に興味がない、取られて困る好きな人がいない人間がいればうまくいく話では?というか一人くらいいるだろ?」と何度思ったか知れない。
誰も彼もが恋に焦がれて浮かれてると思いやがってクソが、とすら思っていて、だったら私は自分がそのポジションになってやろうと思った。

おかげで恋する乙女にはおそらく「こいつは私の獲物に手を出さない安牌だ」と認識され、恋愛への協力を依頼されまくった。
まあ別に「ちょっとアンタさー、あの子を振るとかどういうことなの?」とかやってたわけではなく、あくまでも伝言係とか郵便配達人とかその程度だ。その先のお膳立てはしない。だからかターゲットである男性陣にも「お前はなんつーか集団心理や正義感でやってるんじゃないんだよな、断るの大変だもんな」と一定の理解さえ持たれた上でまあうまくやっていた。

 

とはいえ分かっている。無意識のうちの協力者や共犯者たちもいるってこと。
どう足掻いたって私は男にはなれないし、彼らの中からもどうしても(女の子扱いしないにしても)「男と完全に同列には扱えない」って意識は消えない。
だから、たぶん私の振る舞いに含まれる意図的な部分も、何となく分かってる奴らはいるんだろう。


それでもそれを露わにしないでいてくれる奴らもいて、私はそんな鈍感なフリして誰よりも敏感な彼らが、心から仲間としてとても好きだ。
そして一方で、敏感なフリしてすぐに何でも恋愛沙汰に発展させて掻き回してしまう鈍感たちを心から面倒だと思う。私たちが築いた紳士(じゃないけど)協定を、気付くことなく蹴破るその姿勢を心から軽蔑する。

 

それを分かってるよ気付いてるよって示さなくてもいいから、ただ否定しないでほしい。

私の壊したくない世界とルールを理解して「お前が決めたお前のルールは分かってるけど、その上でこんな解釈もできるよね?」とまで説得してくれないと、私は恋なんかできない。
ましてや一方的に向こうのルールだけを押し付けてくる奴なんて論外だ。

恋に落ちるというか、腑に落ちたいんだ。ああだからこのひと私のこと好きなのかって。

確かにそれは私でも落ちるわって、その人が恋をした過程に共感して感情移入できないと、私は落ちられないみたいだ。


長く付き合った彼氏と長く続いたのは、単に付き合いが長くて情が湧いてるから、だから別れないとか離れないとかじゃなかった。
私が明言したわけでもなんでもない、だけど密かにたくさんあった地雷を、彼はご都合主義者も呆れるほど見事にどれひとつとして踏むことなく越えて私に近付いてきてくれた。
こんなストーリーなら文句なしに読みたいし、私の中のベストラブストーリー(そんなものがあったことに自分でも驚いたけど)受賞決定、そんなストーリーを要望も出してないのに地で書き上げてみせた。

 

告白された時に聞かされた、彼が私を好きになったという過程と理屈に、私の中にある「こんな恋愛はしたくない」に触れるものはひとつもなかった。神経をぞわりと逆撫でするようなことは何もなかった。

「ああ、そっか」って。それなら私も恋に落ちるわ、って、心から納得したし共感できたから受け入れられた。パズルが嵌る感覚と言ったら言い過ぎかもしれないけど、少なくとも私が欲しかったらしい模範解答かそれ以上のものをくれたから。
参りましたって。降参ですって。そこまで言われたら意地張ってらんない、素直にそんなあなたの姿勢が好きだと受け入れますって思ってしまった。

 

モテる人間なんかじゃ全然ないくせに、自分のストライクゾーンとやらが針の穴のように恐ろしく狭いことは自覚してる。だから出会いなんて闇雲には求めない。
加点式でも減点式でもなく、特定の公式でしか正解に辿り着かなくて。

その公式を教える気もないから友達付き合いしながら考えてよ、とかいうまさに悪問。問題として成り立っているのかも疑問。
もしかしたらまさに化学式かも。特定の薬剤数種類を特定の手順と量で混ぜた際のみ私の恋心とやらは反応します、なんて。

 

高嶺の花ぶるつもりなんてない。自認としては無駄に棘だけ生やした雑草だ。

もういっそ、めちゃくちゃ処理が面倒で「何がどうしてそうなった?」という手順でしか食せないコンニャクか何かだと思ってもらってもいいくらい。
この人に咲かせてもらって実が成らなかったら、たぶん次の育て手はもう見つからないと思うし、そうなったら素直に静かに枯れていけばいいかな。と思っていたからまあそれでいいんだけれど。


誰もが誰かに愛でられたい花なわけじゃない。花屋に並びたいわけじゃない。

夕だけに咲く花も、一夜だけ咲く花もある。百年に一度だけ咲くタケの花に、なんで花屋に並びたがらないのかと聞く馬鹿はいないはずだ。

 

息苦しい理由は分かってる。生き苦しい思考の自覚もある。ある上でこれでいいと決めてるんだから。
わたしを花屋に持ち込もうとしないで。